Masuk川田先生から音楽準備室で忠告を受けてから、一週間が経った。放課後、範経は校庭のベンチで由紀に膝枕をされて寝ていた。
「出席確認で名前を呼ばれなかったわね、範経」と由紀。
「うん。先生も疑ってるんだ、ぼくのこと」と範経。
「教育者が聞いてあきれるよ」と祥子。
「由紀ちゃんと祥子ちゃんも、ぼくといると皆に嫌われちゃうよ」と範経。
「大丈夫よ。私たちは先生の受けがいいし、被害者なのよ」と由紀。
「え、そうなの?」と範経。
「うん。それに、あたしたちの着替えの写真がネットに出回ってた。由紀はともかく、あたしの下着姿なんて誰が見るんだろう?」と祥子。
「祥子ちゃんはかわいいよ。それより早く犯人が見つかればいいのに」と範経。
「そうね。それにしても、カメラマニアっていうだけの理由で、範経が疑われるなんて変だわ」と由紀。
「盗撮が始まった時期に、ぼくが学校でカメラを持ち歩いてたから」と範経。
「できすぎた偶然だわ」と由紀。
「そもそも範経が盗撮する理由がないよ。裸なら私たちがいつでも見せてあげられるから」と祥子。
「そうね。それに違法に写真を売らなければならないほど、お金に困ってないわ」と由紀。
「ぼくは盗撮なんて面倒くさいことをしない。でも教員たちはぼくのことをよく知らないから、状況証拠ってことで疑ってるみたいだね」と範経。
「範経はいつも他人事ね」と由紀。
「ぼくは由紀ちゃんと祥子ちゃんがいれば十分だよ」と範経。
「あたしも、私たちの時間を誰からも邪魔されなくてうれしいよ。範経がみんなからシカトされてるおかげで独占できてる」と祥子。
「確かにそうだけど」と由紀。
クラスメートの遠藤猛が友人を連れて近づいて、由紀と祥子に声をかけた。「二人はなぜいつも範経を
「うるさいな。ひがんでるのか?」と祥子。
「庇ってるわけじゃない。そもそも範経は犯人じゃないわ。友達だから一緒にいるだけよ」と由紀。
「妬けるね」と猛。
「うらやましいだろ」と範経。
「上から目線だな。お前のそういう人を見下したところが嫌いなんだよ」と猛。
「そりゃ悪かったね」と範経。
「ほんとうに腹立つ奴だな。盗撮犯のくせに」と猛。
「ぼくじゃないよ」と範経。
「あなたたち、何しに来たの? ケンカを売りに来たのなら、どこかに行ってちょうだい」と由紀。
「今年の文化祭の実行委員会のメンバーになってほしいんだ」と猛。
「断るわ。範経を疑ってのけ者にしている人たちに、協力なんてしないわ」と由紀。
「なぜそんなに範経にこだわるんだ。君たち二人は勉強で断トツの学年一位と二位だし、スポーツや文化活動にも秀でている。なのに放課後をこんなふうにだらだら過ごすなんて、無駄じゃないか」と猛。
「余計なお世話よ!」と由紀。
「私たちは、この三人で過ごす時間を大事にしているの」と祥子。
「この冴えない範経のどこがいいんだ」と猛。
「凡人のぼくたちに、この塚原範経君の素晴らしさを教えてもらえないかな」と猛の連れの山田隼人が言葉を付け足した。
「相手が優秀だから友達に選ぶなんておかしいでしょ。そんなこともわからないの?」と由紀。
「釣り合わないだろ。君たちと塚原では」と隼人。
「友達に釣り合いなんて考えないわ」と祥子。
「ぼくが無能だから、由紀ちゃんと祥子ちゃんが補ってくれているんだ」と範経。
「お前には聞いてないよ」と猛。
「ぼくは友達でいる理由を聞いてるんだけど」と隼人。
「好きだからにきまってるだろ。馬鹿じゃないの」と祥子。
「話にならないわ。委員会には参加しません。私たちはもう帰るから」と由紀。
「ここにいたのは、だらだらしていたんじゃなくて、範経の気分が悪かったからだ。もう、私が背負って帰ることにするわ」と祥子。
「そうなんだ。ちょっと恥ずかしいな」と範経。
「駅までだから我慢して」と祥子。
「本当に女子に背負われてる。すごいな」と隼人。
「由紀さんがこの二人の荷物も持つのか?」と猛。
「下の名前で呼ばないで!」と由紀。
「なんか悪かったね。事情がよくわかってなくて」と隼人。
「もう構わないでちょうだい!」と由紀。
「お前たち、由紀にすごく嫌われたぞ」と祥子。「範経、熱あるだろ。だいぶ熱いぞ」と背中越しに言った。
「そうかな。祥子ちゃんの背中、あったかい」と範経。
「ほんとうに変な奴らだな」と隼人。
読んでくださりありがとうございます。「よかった」とか「面白い」 のような一言でもよいので、コメントを残していただけると幸いです。 今後の創作活動でフィードバックさせていただきます。
ある初夏の夕方、アルゴー社で定例の役員会議があった。「またお客さんが来るの?」と範経。「言っておいただろう。ネオジェネ社の創業者のロバート・アンダーソンさんと家族だ。お前、一度会ってるだろう」と幸一。「かろうじて覚えてるよ。シャーロットの父親でしょ?」と範経。「そうだ、あのおてんば娘も一緒に来るそうだ」と幸一。「範経はまた追い回されるのね」と美登里。「息子のトムも来るそうだ。お前にぞっこんらしいぞ」と幸一。「いやだわ」と美登里。「断れないの?」と範経。「ロバートはお前に会いたいらしいんだ」と幸一。「何で?」と範経。「会って聞け」と幸一。「シャーロットも範経に会いたがってるでしょうね」と涼子。「何でぼくなんだよ」と範経。「チェスで負かされたからでしょ」と美登里。「負けず嫌いだものね、あの娘」と涼子。「何で負けてやらなかったんだ。お前らしくない」と幸一。「疲れてたんだよ。接待将棋なんて気分じゃなかったから、最短の手で勝って終わらせたんだ」と範経。「怒らせたお前が悪い。今回も遊んであげるんだな」と幸一。 次の日の午後、アンダーソン氏がアルゴー社を訪問した。「ロバートを連れて来たよ」と言いながら幸一が会議室に入った。 範経が椅子から立ち上がった。「お久しぶりです、ロバートさん」「社長に就任、おめでとう、範経君」とロバートは範経と握手をしながら言った。「ありがとうございます」と範経。「今後ともよろしく。活躍を期待しているよ」とロバート。「ぼくはお飾りですよ」と範経。「そんなはずはないだろう。アルゴー社の製品は君が開発したものばかりなのに」とロバート。「お父さん!」と言って範経は幸一をにらんだ。「守秘義務を忘れたんですか、会長?」と美登里は幸一に冷ややかな目を向けた。「おいおい、オレは何も言ってないよ」と幸一。「まあまあ落ち着いて。私はだれからも聞いてない。ただの推論だ」とロバート。「その推論を聞かせてくれ」と幸一。「かまわんよ。簡単なことだ。君たちが拙宅に滞在したときに気が付いたんだ。娘がチェスで負かされたときにね」とロバート。「あれはイカサマですよ。わが社の電脳を使ったんです」と範経。「シャーロットもだよ。私が作って、あの子のために調整した人工知能だ。もちろん市販の人工知能よりずっと性能がよいものだ。
由紀と祥子が主役を務める「ロミオとジュリエット」は大盛況だった。劇が終わって範経たちは体育館を出た。「範経! やっぱりいた。一番前の席にいたから、探しに来たのよ!」と由紀。「由紀ちゃん! 祥子ちゃん!」と範経。「もう逃がさないわ。今までどこに行っていたのよ!」と由紀が範経を抱きかかえた。「ちょっと、こんなところで……」と範経が体をねじって抵抗した。「私が先よ」と由紀。「しかたない。私は次でいいわ」と祥子。「観念するのよ、範経」と言って由紀は範経に顔を近づけた。「なんで、いきなりこんな……」と範経。「今度会ったら絶対キスするって決めてたの」と由紀。「もう離さないから」「みんな見てる……」と範経。「抵抗したら、もっといやらしいことしちゃうわよ」と由紀。「なんでそんな……」と範経。「高校をやめようとしたでしょ」と由紀。「それは……」と範経。「私たちのこと、どうするつもりなの?」と祥子が後ろから耳元でささやいた。「ごめん」と範経。「彼女じゃなくて、公認の愛人にしてもらうわ」と由紀。 由紀は範経の口をキスでふさいだ。 祥子が後ろから、他の人から見えないように範経の股間を手で探った。「範経のアレ、硬くなってるよ」と祥子がささやきながらアレをさすった。 由紀のキスの後、祥子が範経を自分の正面に向け、両腕で強く抱きかかえてキスをした。「ねえ範経、私たちのこと、ちゃんと考えてくれる?」と由紀が後ろからささやきながら、範経のズボンのポケットに手を入れてアレをにぎった。 一緒にいた美登里やケイトたちも含めて範経の周りに人垣ができた。美登里は範経たちのキスシーンが終わるのを待ってから言った。「この二人が由紀と祥子よ。由紀、祥子、こちらがケイトとメアリー。今、うちの家に泊まってもらっているの。さっきあなたたちの劇を見せてもらったわ」「初めまして。由紀さんがジュリエットで祥子さんがロミオだったのね。ロミオ役が女の子だったなんて、ちょっと驚いたわ」とケイト。「どちらが範経さんのガールフレンドなの?」とメアリー。「両方よ。見ての通り」と美登里。「さすが範経さんね。無理やり人前でキスされる男の子なんて初めて見たわ」とケイト。「しかも二人の美少女になんて」とメアリー。「ケイトさん、メアリーさん、私たちが文化祭を案内するわ」と言って由紀が歩
美登里はケイトとメアリーを鶴峰高校の文化祭へ連れて行った。範経と涼子が同行した。「どこにに行くの?」と範経。「校長室よ。先生方に呼ばれているの」と美登里。「高校に来るのは久しぶりだわ。変わらないわね」と涼子。「行きたくないよ、ぼくは由紀ちゃんと祥子ちゃんに会いに行くよ」と範経。「だめよ、あなたも来なさい。先生方にケイトとメアリーを紹介するのよ」と美登里。「そんな必要ないだろ。文化祭に遊びに来ただけなのに」と範経。「校長が是非にっていうのよ。それに短期留学でお世話になるかもしれないでしょ」と美登里。「まじでこんな高校に留学するのか。ありえないだろ。ここの教員どもはろくでもないよ」と範経。「範経、黙りなさい。ケイト、メアリー、ここが校長室よ」と美登里は言ってドアをノックした。「塚原です」「どうぞ、入ってください」と中から声がした。 美登里たちは校長室に入った。部屋には三人の教員がおり、そのうち二人は応接セットの椅子に座っていた。美登里はケイトとメアリーを紹介した。「校長先生、こちらがケイト・ヘルマンさんとメアリー・ヘルマンさんです」「ようこそ、おいでくださいました。校長の山本と申します。こちらが教頭の内田です」と校長の山本が自己紹介した。「こちらこそ、よろしくお願いします」とケイトとメアリーが山本らと目を合わせた。「前川涼子さんも久しぶりです。みなさんこちらに座ってください」と山本。 美登里とケイトとメアリーが山本と内田に向き合う長椅子に座った。「範経もこちらに来なさい」と美登里。「ぼくはいいよ。椅子が足りないし」と範経。「すぐ椅子を持ってこさせます」と山本。 雑用係の若い教員が二脚のパイプ椅子を長椅子の横に広げた。「立ったままで結構です。用件だけ聞いたら帰りますから」と範経。「範経、こちらに座りなさい。そのパイプ椅子には私が座ります」と美登里が立ち上がって、長椅子の席を譲った。「わが校に来てくださって大変光栄です。今はどちらにご滞在なのですか?」と山本。「塚原家のお宅にホームステイをしています。父が範経さんの会社とお付き合いがある縁でお願いしたのです」とケイト。「塚原家の子弟の方々はわが校の誇りです。在学中の美登里さんは常に成績は首位ですし、従姉で卒業生の涼子さんも同様でした。範経君には少し問題がありますが、責任を持
由紀は美登里に電話をかけた。「範経が社長になったと聞いたのですが」「ええ、そうなの。だからしばらくは忙しくて高校に出られないわ」と美登里。「先日、電話で範経が高校を辞めるって言ってたのですが……」と由紀。「やれやれ。そんな事はさせないわ」と美登里。「本当ですか?」と由紀。「約束するわ。落ち着いたら、また高校に連れていくから」と美登里。「範経は無理してないですか?」と由紀。「少し疲れてるわ。投資家の接待のような慣れない仕事が多いから」と美登里。「かわいそうな範経」と由紀。「また可愛がってあげてね」と美登里。「はい」と由紀。「ところで頼みがあるのだけど」と美登里。「何でしょうか?」と由紀。「うちにお客さんが来ているの。仕事でお付き合いのある方の娘さんで、日本の高校を見たいと言っているの。鶴峰高校の文化祭に連れていくから、一緒に案内してもらえないかしら」と美登里。「もちろん、喜んで。私たち、劇をやるのでぜひ見に来てください」と由紀。「演目は何?」と美登里。「ロミオとジュリエットです」と由紀。「随分べたね。分かったわ。範経も連れていくからよろしく頼むわ」と美登里。「ええ、お待ちしています」と由紀。
帰宅した範経はリビングルームのソファーでくつろいでいた。「範経、こっちに来なさい」と美登里。「何、姉さん」と範経。「キスして」と美登里。「え、ここで?」と範経。「そうよ、毎日するっていう約束でしょ」と美登里。「だけど、だれか来るかも……」と範経。「かまわないから、早く」と美登里。「ちょっと……」と範経。「力を抜いて」と美登里。「待って……」と範経。「そうよ、いい子……」と美登里。「……ぼく疲れてるんだ。お客さんと外食なんて好きじゃないよ」と範経。「分かってるわ」と美登里。「もう眠い……」と範経。「横になりなさい。膝枕してあげるから」と美登里。「うん」と範経。「ここで休みなさい」と美登里。 範経が眠った。美登里は範経を抱きかかえて立ち上がった。「圭、明、今日は範経を私の部屋で寝かせるわ。」「どうぞ」と圭。「好きになさって。お姉様」と明。「範経さんをお嬢様抱っこして連れて行ったわ。美登里って力持ちね」とケイト。「圭、明、いいの?範経さんをお姉さんの部屋で寝かせて?」とメアリー。「ええ、構わないわ。兄が幸せなら」と圭。「優しいのね」とケイト。「兄の心配がないなら、私たちも寝るわ」と明。「ケイト、メアリー、おやすみなさい」と圭。「おやすみなさい」とケイトとメアリー。
「圭、明、あなたたちが妹になってくれるって聞いてとても楽しみにしていたの。少し残念だわ」とケイト。「私たちは兄から離れられないわ。お兄様は私たちのすべてだから」と圭。「そのようね」とケイト。「それに、一日でも私たちがいなければ、ハイエナのように姉たちが兄さんを奪っていくわ」と明。「あなたたちって本当に範経さんのことが好きなのね」とメアリー。「ところで、範経さんは圭と明の兄ということは、高校生ですか?」とケイト。「ええ、一応は。社長になってからは時間がないので退学するつもりなのですが、退学届けを出す時間すらないのです」と範経。「ひょっとして私と同い年かしら」とケイト。「どうでしょう。私は十六歳で高校二年生ですが」と範経。「同い年だわ。もっと年下に見えていたけど」とケイト。「実は私、日本への留学を考えていて、今回の旅行は留学の下見を兼ねているのです。美登里さんと範経さんの通っている高校を案内してもらえないでしょうか」「それはいい考えよ。私たちが案内してあげるわ」と美登里。「今言ったようにぼくは高校を辞めるつもりで……」と範経。「何いってるのよ」と美登里。「ぼくはもう退学届の書類を書いたし……」と範経。「保護者のハンコを押したの?」と美登里。「いや。まだだけど、お母さんに……」と範経。「あなたの保護者は私よ。知らなかったの?」と美登里。「え?」と範経。「お母さんが忙しいから、あなたのことは私に任されているの。勝手はさせないわ」と美登里。「そんな無茶な」と範経。「ちゃんと高校に通いなさい」と美登里。「忙しいよ」と範経。「だめよ、落ち着いたら、毎日私が連れて行くから」と美登里。「ケイト、私たちが案内するわ」「ぜひお願いします」とケイト。「私も連れてって欲しいわ」とメアリー。「もちろんよ。来週、高校の文化祭があるの。一緒にいきましょう」と美登里。「うれしいわ!」とケイトとメアリー。「よかったらうちに泊まっていってもいいわよ」と美登里。「本当に?」とケイトとメアリー。「美登里姉さん、名家のご令嬢に泊まっていただけるような家じゃないよ」と範経。「構わないわ。だって日本でホームステイしたいと思っていたから」とケイト「お父さん、お母さん、いいでしょ?」「もちろんだ。範経さん、いいのですか?」とジョン。